神様をめぐる冒険 その43

神様をめぐる冒険 その43

第4章

タクシーを降りる。やはり、ここはあちらの世界では再雇用の説明会が行われている会場だ。入り口には筆書きで「全国・京都に都を取り戻す会・大阪シンポジューム」の文字が大きく書かれていた。

数段の段差を登り、ガラスの大きな扉を開けて、ロビーに入る。例の「死んだ猫と生きた猫の機械」のことは考えないことにした。少し進んで、ホールの入り口を目指して歩く。静かな空気が流れていた。入り口前に受付の長机がある。白い用紙に同じように筆文字で「大阪シンポジューム・受付」と書かれていた。

長机の奥にはパイプいすが2脚あり、黒っぽいスーツを着た銀縁メガネの男性と同じく地味なスーツに地味なメークの女性が座っていた。どちらも40歳くらいだろうか?無視して通り抜けることは難しそうだから、仕方がない。まっすぐそちらに向かった。

「いらっしゃいませ。ツル様。本日はようこそお越しいただきました。お伺いしておりました。」男性の方が立ち上がり、そう声をかけてきた。「こちらのご出席名簿の方にご署名だけお願いいたします。」女性の方は座ったまま、僕の前にバインダーを差し出した。ひどく抑揚のないしゃべり方だ。男の方がスーツの胸ポケットから深緑色した金属製のボールペンを取り出して、渡してくる。なにかのノベルティだろうか、側面に金色で小さな文字が書かれている。確認してみる。多少消えかかっているが、はっきり読めた。『佐川革命店 大阪府東淀川区...電話06-..』

適当な住所と電話番号を書く。どうせ確認の仕様もない。ノベルティっぽい書き味のボールペンは普段から上手くない文字をさらに読みにくくした。我ながらへたくそな文字だ。上の行に書かれた赤の他人の文字はみんなきれいだというのに。

もはや、この男が顔も見たことのない僕のことを、名前を書く前になぜ知っていたのか。佐川のおっさんとどういう関係なのか。といった疑問も持たないことにした。ここは『非日常の世界』なのだ。もはや、何が起きても気にした方が負けだ。無理やりにでも平然でいるしかない。

自分の選んだ選択肢である。さがわのおっさんが言うように「全ては自己責任」なのだ。

男は「それではこちらでございます。ご案内いたします。」と、先導し、会場入り口の大きな重い、それでいてスムーズに動く扉を開けて、僕を招き入れた。女は軽く会釈をした。手前の数人がこちらを見た。

とはいえ、足は震えていた。人間そうそう変われるものではない。

Thanks for installing the Bottom of every post plugin by Corey Salzano. Contact me if you need custom WordPress plugins or website design.