神様をめぐる冒険 その23

神様をめぐる冒険 その23

「T次長?」

明らかに聞こえていたはずだ。しかし、彼はそんな僕を無視するように視線を一点に向ける。そして、最初の店員さんから『猫の箱」を受け取り、「ちょっと確認させていただきます。」と、いかにも抑揚のない話し方でそう言った。

最初に応対してくれた店員さんに軽く合図をする。「じゃあ後はお願いします」と、彼は離れていった。しかし、どう見てもT次長だ。いや、あちらの世界では彼は2年前に癌で亡くなっている。

名札も首からの身分証も何もなく、Mのジャンバーを着ている。メーカーから派遣された販売応援といったところか。にしても、普通は何か身分を証明するものくらいするだろ?

「お客様こちらの商品はどちらで手に入れられました?」

いや、声も少し違うかも?だいたい最後はそれでなくても細かったのに、病気のおかげで激痩せしてたしな。健康な時ってこんな感じやったかなぁ?

「少々お時間いただいてよろしいですか?調べてまいりますので、それまでこちらのサービスコーナーでお待ちいただいてよろしいですか?」

返事を聞く前に彼は歩き出し、店内の一角にある商談コーナーへ案内しようとする。おっさんに言われた時間まではまだ少しあったので、「わかりました。」と答え、後ろを付いて歩いた。

少しマシなパイプ椅子というかんじの椅子が4脚と、耐久性だけは良さそうなテーブルの応接セットに案内される。「一応、何分くらいですか?」「なるべく速く帰って来ますので、少々お待ち下さい。」

仕方がないので待つことにした。やはり、良く似ているだけだろう。そういえば、と、携帯電話をポケットから出す。

最後の着信はやはり店長のままだった。アンテナは3本立っている。試しにiモードに繋いで観る。やはり反応は無かった。誰かに電話を掛けてみようか?

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