神様をめぐる冒険 その49

神様をめぐる冒険 その49

第5章

「なぜ、今回我々は公的資金を使ってまでして、この会社を再生させようとしているのか?」

ステージの上では青色に近いネイビーに白のストライプが入った3ピース、おそらくオーダーの見るからに仕立ての良いものを着た男性がマイクを手に話している。

「実際、規模のさして変わらない、もしくは大きな家電量販チェーンや、GMSのグループなど支援しなかったものも多くあります。そして私は今回の公的資金の注入には最後まで反対でした。皆さんももちろん納税者ではありますが、公的資金という国民の皆様の税金、血税を使って、果たして再生させるに値するのか。この会社は。」

黒髪をオールバックで固め、浅黒い精悍な顔つき。体型は常に鍛えていそうな引き締まり方。絶対学生時代はラグビー部やったはず。などと、のんきに想像してみる。

「昔から一つのビジネスモデルは寿命が35年と言われていました。実際、私たちプロの経営者たちの体感的にはそれもどんどん、ほんと年々短くなってきている。今は30年を切っているという認識です。大学を卒業して、約40年会社に勤めるとして、そうなってくると少なくとも2つ以上の会社に勤めなければならない。終身雇用で大手の企業や上場企業に入社すると年功序列で一生安泰などということはもはや幻想です。残念ながら、皆さんも入社する時は上場企業に入社してまさかこんなことになるだなんて思ってなかったでしょう、きっと。」

ステージの上には長机があり、3人がパイプ椅子に座っている。もちろん、登場人物はさっきまでと全く別だ。弁護士と役人と議員、そして今は空席になっている席の男が中央でしゃべっている。プロの経営者。

「すいません。ホワイトボードをお願いできますか?」

恐ろしく地味なスーツを着た関係者がステージ袖から自立式のホワイトボードを引っ張ってくる。主役と黒子。大昔から変わらないお芝居を見せられているようだ。「ありがとう」

「競合他社と差別化するには、大きく分けて3つの軸のどこで戦うか。これが重要になってくるわけで。」

ホワイトボードの上側3分の2くらいに横幅いっぱいの四角を書く。その左下に横幅3分の2くらいの四角。そして残りのスペースに小さな四角。

「この一番大きなところが価格軸。そして、その次に大きなところが密着軸。そして一番小さなところが品質軸。この3つの軸のどこかでしか戦うことは出来ません。例えば『お寿司』の業界。一番大きな、最もパイのでかいこの価格軸には回転ずしのチェーン店が、密着軸のここにはいわゆる町のお寿司屋さん。ここの品質軸には時価でやってるような銀座の名店みたいな。」

あの時、あちらの世界で元彼女があの機械のスイッチを押したのだ。自分の選択ではなく、また僕は元の世界にいる。そして自分の選択とは逆の再雇用説明会にいるのだ。

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