神様をめぐる冒険 その69

神様をめぐる冒険 その69

車は高速道路の出口を降りて、一般道を走っていた。2車線の幹線道路の両側には見たことのあるチェーン店の看板が目に入る。赤、オレンジ、青、黄色。

それぞれの看板にはそれぞれテレビのコマーシャルの映像やテーマ音楽や出たがりの社長の顔などがこびりついていて、その裏側には人件費だとか、減価償却費だとか、通信費だとか、ドライに損益分岐点を計算している本部の社員が見えるようだ。

あちらの世界も全国どこへ行っても同じような景色だが、こちらの世界も同じようにチェーン店の看板とチェーン店の建物で覆い尽くされている。どこへ行っても同じ世界。例え此処がどこだろうと愛着や思い出が残ったりするのだろうか。

小遣いを貯めて同級生と行ったしょうゆ味でチャーシューがパサパサした、それでもその時はとんでもなくごちそうだったラーメン屋。中学生の時に初めて付き合った女の子と最初にデートした映画館。高校生の時にアルバイトしたなけなしのお金でこっちにしようかあっちにしようかと迷いに迷ったレコード店。どれも倒産したか、ひとつのショッピングモールにテナントとして入居したかのどちらかだ。家電量販で最初に勤務したお店も今では100均のお店になっている。

車はわざと遠回りして少年野球の練習場所だった市営グラウンドの横を通る。内野の部分が黒土の、それ以外はこれといった特徴もない、ただ、だだっ広いだけのグラウンド。そういえば、まだ小さい弟と父親母親の4人で野球したこともあったな。母親がキャッチャーで、ピッチャー兼守備は父親だけだから子供の打球とはいえ父親は走り回ることになる。弟はすぐに飽きて砂遊び。

少しだけ泣きそうになる。

水量の少ない浅い川には不釣り合いな大きな橋を渡る。

右斜め前に見えてきたのは、子供の頃過ごした団地だ。A棟とB棟。少し離れて独身寮。薄汚れた鉄筋コンクリートの塊。鉄製の扉。鉄製のベランダの柵。干された洗濯物。誰も使っていないブランコ。日に焼けた滑り台。

当たり前のように受付の男はA棟の一番手前、公衆電話ボックスの前に車を止めた。「お父様がお待ちです。」バックミラー越しに受付の男はそう言った。

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