神様をめぐる冒険 その9
- 2019.11.04
- ストーリー
店長との付き合いは長い。
店長ことMさんは僕が新入社員として入社した時の店長代理だった。今から10年前の事。今とは違うお店であったが、こうしてみると、最初と最後の上司である。当時の店長はすごく調子の良い人で、上司受けも良かったから、その後、どんどん出世して行った。実際の部下からすると、一番最後に出勤してきて、朝礼だけ済ましたら「ちょっと、歯医者に行ってくるわ」とか、「ちょっと、競合の何々をみにいってくるわ」といった感じですぐにサボろうとする人であんまり信用できない人だったが。なぜか上司の課長や部長が店に様子を観にくる時には必ず店にいて部下に指導だなんだしているといった不思議な人だった。結局、数年後、出世して本社勤務になったあと、噂によると金銭がらみの問題で退職したらしい。だが、それは別の話。
Mさんは、そんな当時の店長とは違って、コツコツ真面目に働くが、器用なタイプではなく、上司受けはそれほど良くなかった。もともと、コンピューターの学校出身で本当はそっち方面に進みたかったらしいのだが、夢半ば(その辺りの経緯はあまり話したがらなかったが)で、電気屋のおっさんとして生きていくことにしたらしい。その辺りがイラストレーター崩れの僕と境遇が似ているっていうか。最初からなにかと気に掛けてくれていた。
まぁ、でもその頃から飛び出すダジャレはイマイチだったけど。
電気屋でほんとうにお世話になった上司はこのMさんともう1人の方(もうすでにお亡くなりになったが)がいて、この二人がいなかったらここまで続いたかどうかわからない。語り出すと長い話になりそうなので、これまた別の話で。
「店長、お疲れ様です。」「おー、今どこ?もうみんな集まってるで。」
短い沈黙
「すいません。いろいろ心配してもらって。今まで何回も電話もらってうれしかったんですが、やっぱり、辞めておきます。」
「なんでやねんな。みんな来てるし、話しだけでも聞いたらええやんか。今までみたいにザルな経営じゃなくて、きちんとした会社になるはずやし。顔だけでも出してみいな。考えるのはその後でもええし。なっ。」
「みんな、お前の顔、久しぶりに見たい言うてるで。まぁ、遅れてでもええから、顔出しーな。なっ、ええか?聞いてるか?」
「すいません。ほんとにありがとうございます。いろいろ、考えたんですが、やっぱり。すいません。また、電話します。」
「ホンマやろな。説明、よー聞いといたるから、また、夜電話するから。ちゃんと出ろよ。」「すいません。すいません。ほんとうにありがとうございます。」
どんな取引先相手でも、クレームの電話でも電話先の見えない相手に頭なんか下げたことなかったんだけど、商店街の入り口で僕は頭を下げながら電話していた。
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