神様をめぐる冒険 その14
- 2019.11.09
- ストーリー
うちの実家には僕が子供の頃から、Mの製品がひとつもなかった。前にも話したが、親父が会社を落とされたせいだ。いや、正確に言うと、就職試験さえ受けていないのだから、Mの方からすると「逆恨み」みたいなものだけど。電池ひとつとっても他社の商品を使っていた。これは日本中割とそうだと思うが、家電量販店が主流になる前は街の電気屋さんで電化製品は購入していた。そしてそういった販売店はほとんどがMの特約店だったように思う。うちの近所にも、Mのそれは2店舗あって、よくカタログやらパンフレットを持ってお店の人が営業(御用聞き)に来ていた。
だけど、結局家電製品を買い替えたりする時は、それよりも遠くにある別のメーカーの特約店に行っていた。当時うちには自家用車が無かったからワザワザ自転車に乗って、家族でお出掛けだ。何にしても、家の家電製品が新しくなるのは嬉しかったから、それはそれで良かったんだが。家電量販店が主流になってからも、やはりその傾向は続いた。
「あのちょっとすいません。よく理解出来ないんですが。どなたかと勘違いされてませんか?」
硬貨と電化製品らしきものを眺めながら、今起こっているこれは自分の事ではないと、思い込むように話す。
「ウチの父は合成樹脂を作る会社に勤めていまして、Mには勤めた事はないはずなんですが。」
「そうだね。それもそうだし。そうでないとも言えるわな。」
「あ〜、どう言う事でしょう?僕は生まれた時からずっと父の勤める会社の社宅に住んでました。僕が生まれる前の話ですか?それでもそんな話は聞いたことがありませんが。父はもうすぐ定年で新卒からずっと今の会社一筋で40何年勤めてきたんです。」
「なるほど、これは一から説明が必要やな。ゴメン、ゴメン。」
「悪かった、申し訳ない。じゃあ、何から話そうかな。」
おっさんがお茶を一口すする。
「時間は大丈夫かな?」
ここまできて、このまま帰ること出来る?
硬貨にも違和感を感じながら、話の続きを聞くことにした。
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