神様をめぐる冒険 その1

神様をめぐる冒険 その1

「あ~~~、めんどくせぇ~~」

誰もいないワンルームの部屋で

誰に聞かせるってわけでも無いのに

ずいぶんとはっきりとした独り言だ。

ひと月前、勤めていた会社(家電量販店)が潰れた。

突然と言えば突然に、

当然といえば当然かぁ。

と、今となっては思う。

その日もいつものようにお店に出勤したら

従業員のための通用口の前で

店長が携帯電話で誰かと電話していた。

大体店長が一番先に出勤してきて

その次は店長代理の僕が来ることが

多かった。

自分が新人の頃は

新入社員ほど先輩よりに先に

出勤してまずは清掃するみたいな

のが普通だったのになぁ。

今じゃ、若い子ほど定時ギリギリに

出勤して来るんだけど、

まぁ遅刻してるわけでもないし、

注意してどこかに訴えられても

困るわけで…

結果、偉いさん(お店の中でってだけで、

給料も役職もそんなに変わらないんだけど)

二人がまぁ大体早く来ることになってた。

その電話をかけながら

僕に気付いた彼は

一旦相手に会話を断り、

マイク部分を抑えながら

「ツルちゃん、これ見て』

と、通用口に貼られた一枚のA4用紙を

指差して、再び電話口の相手と会話を始めた。

おそらく察するに相手は上司であるHさんだろう。

一年ほど前からおかしなことに会社から一部最上位の10名ほどをのぞいて

役職名が消えた。

今でもついついH次長と呼んでしまいそうになるが…

まぁ、それはそれで別の話。

そのA4用紙一枚には

会社が潰れたこと、

結果、許可なく入ると罰せられる、うんぬん

などが管財人である弁護士先生の

名前であっさりと書かれていた。

ずいぶんあっさりしてるのね。

よその関西資本の家電量販店で

そういうことがあったって話は

確かに聞いたことがあったんで、

そんなものかとは思ったけど…

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