神様をめぐる冒険 その33

神様をめぐる冒険 その33

学校の視力検査は思い切り目を細めた上に、かなりあてずっぽうな勘で何とか0.3とか、0.4の視力だった。年々悪くなっているような気は自分でもしていたんだが、黒板もなんとか見ようとすれば見える。夕方暗くなった時以外はボールも見えるし、監督のサインなんかも見えるのだから大丈夫だとごまかしていた。でも、もし、変化球がオッケーだとして片山君のサインは全然見えなかったはずだ。狙ったところに投げるにはやはりメガネが必要なのは明白だった。

『メガネいややなぁ~』

「背に腹は代えられない」なんて言葉を知っていたかどうか?は別にして、ついに「メガネ」もしくは「メガネザル」に変身することになった。小学生でメガネだと大体この程度のレベルの低いあだ名で呼ばれるもんだ。しかしそれもこれも初勝利のためである。

実際メガネ屋さんでキチンと測った視力は0.1もなく、お店の人には「良くこれまで野球やってきてましたね?」と驚かれた。思ったよりもはるかに分厚いレンズ(それでも薄型仕様の高額な)の銀縁メガネである。慣れるまでの当分の間、視界の端に行くほど景色がゆがむので頭がクラクラしたし、重さで耳の後ろが痛くなった。そして、野球をするときには外れないように頭の後ろに黒いゴムのバンドを付けなければならなかった。これがまた何ともいえず、子供心にもかっこ悪いのだ。

野球をやっている男の子の動機の何割かは絶対に「女の子にモテたいから」の、はずだ。僕だってクラスの長崎さんや春日さんに「ツル君かっこいい」と言われたいが野球を始めたきっかけの5割くらいを占めていた。

学校の部活動でもないのだから、いつも練習している市営グランドまで女の子がわざわざ見に来てくれるわけはない。でも、たまたま、彼女たちが通りかかって「あれ?ツル君じゃない?」なんてことにならないかなぁ?とか、手作りの蜂蜜レモンを差し入れに来て「頑張って!」なんて言ってくれないかなぁ?とか、空想したりしていた。

『これじゃ絶対、女の子にモテない。』

これからは野球に全てを捧げるのだ。

野球の神様、これだけやってるんだから、お願いしますよ。

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