神様をめぐる冒険 その28

神様をめぐる冒険 その28

「運転手さん?1万円硬貨って使えますか?」

運転手はバックミラー越しにちらりと視線を向けて言った。「そうですね。」当たり前のことを聞くんじゃない。みたいな感じで。「たぶん足りると思いますよ。」「うちはクレジットカードも使えますんで、あれでしたらおっしゃってください。」

使えるならね。と、心の中で考えたが、やめておこう。

町並みはやはり少しだけ違和感があった。いや、やはり、そう思い込んでいるだけかな。何かの本で読んだな。スコトーマっていうんだっけ?人は意識したものしか意識しないし、見ようとしないものは見えないらしい。普段、こんなに景色を意識して見る事なんてないから、単純に見えなかっただけなのかもしれない。ほんとは鼻の頭なんて常に見えているのに、見ようとしなければ見えない。無意識に思い込んでいるかららしい。

それほどの渋滞もなく、20分ほどで目的地に到着した。おっさんには住所と最寄りの駅を書いた紙しか渡されなかったので、運転手には住所だけを伝えた。そして、やっぱり、目的地は例の説明会の会場であった。あちらの世界では再雇用の説明会が行われているはずの会場である。会場の前でタクシーが停まる。1万円硬貨を渡すと、おつりは少しだけあった。財布の中は小銭だらけでパンパンに膨れ上がった。やはり、こちらの世界は比較的全体の物価レベルより交通費が高いのかなと思った。まぁ、一部の電化製品とそれしか知らないのだけど。

「人生は思い通りにならない。」

中学2年生からずっとそう思ってきた。

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