神様をめぐる冒険 その55
- 2019.12.22
- ストーリー
第6章
そもそも、今いる世界はどこだ?
「私は神を信じているわけではありません」
ステージ上では学者に続いて、2番目の男が話し出す。後ろの長机には父親と元彼女が座っている。
「しかし、信じていないわけでもありません。私は何も知らないということだけを知っています。無知の知。それ以上でもそれ以下でもない。」
またあちらの世界に戻ってきた。正確に言えばあちらの世界かどうかもわからないが。
ついさっきまでは同じステージで新社長がMにいた時の話をしていた。
自分は子供の時から敬虔なクリスチャンで心から神様を信じていたし、この世界は全ては神が作りたもうた。だから、最初に量子学に出会ったときにはそれは何かの間違いであると思った。流石にダーウインの進化論をまるで信じないとか、地球はいまだに平面であると言ったことは違うと感じたが、それらの事柄にも何か神の力が働いた結果そうなったと考えていた。
だから、自分はいかに量子学といったまやかしの科学とやらを、その間違いを正してやろう。だから、それを研究しようと考えた。しかし現実には自分の境遇は母子家庭で、小さな弟たちのこともあり、進学して研究を続けたりできる境遇ではない。
そこで、どんな方法でもいいから入り込んでさえしまえばなんとかなるのではと考え、Mに一般職として就職したのだと。本来ならば工業高校出のそんな自分が新卒で採用されるわけはない。しかし、願えば叶う。そのお話をしたい。ではなぜ私は採用されたのか?
そこで彼は「ちょっと暑くなってきたので上着を脱がさせてもらいます。」と言い、上着を脱ぎ出した。ステージの袖から地味なスーツの係員がそれを受け取りに来た。その時、彼の上着から何かが床に落ちた。
見覚えのある銀色の機械。例の「猫の運命を左右する箱」だ。そして僕はまた自分の意思と関係なく、別の世界に移動した。
何が全ては自己責任だ。
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