神様をめぐる冒険 その56
- 2019.12.23
- ストーリー
今すぐぶちぎれて会場を出て行ってやろうと思ったが、体が動かなかった。さっきあちらの世界で自分を変えるために必死に考えたつもりだったのに。なぜだ。こっちの世界では帰る場所が無いからか。単に意気地が無いからか。せっかく今までにないくらい一時の感情じゃなく、心の中から盛り上がったと思ったのに、クズか?俺は?
それでも学者の話は続く。
全くもって頭には入ってこないし、クソつまらない。なんだそりゃ。
徐々にこのままではいつもと同じだと声が聞こえてくる。さっきの神様の声ではない。誰の声だ。
小学校の4年生の頃、ねだりにねだってようやく買ってもらったラジオカセットで録音した自分の声を初めて聞いた時のことを思い出す。誰の声?こんな声ではないはず?
「ちょっと待ってください。」
思わず立ち上がって声を出していた。
ステージ上では男がびっくりした表情でこちらを見た。
「ちょっと待ってくれ。なんやねんこれは。いったいなんでこんなところに呼ばれたんや。」
男はどぎまぎしながら、「まぁ、お兄さん落ち着いてね。係りの人はちょっとどうなってるのかな?警備の人はいないのかな?」と、ひきつったような笑い顔をし、あたりを見回した。
父親が机の上のマイクを取り、「セイジ。まだわからんのか?よく考えてみろ。みんなに迷惑やから、あとで裏で話そう。」と、ものすごく冷静に言った。
「なんやねんこれ、はよ帰らしてくれ。」
どんどんヒートアップしていくのが自分でもわかった。
「親父、なんやこれは。いや、あんたほんまにオヤジか?なぁ、その機械返してくれ。もう帰るから。これ以上、振り回さんといてくれ。こんなところに来るべきやなかったわ。」
「皆さんに迷惑やから、一旦頭冷やしてきなさい。」あくまでも冷静に父親が言う。
だめだ。もうおさえられない。ステージによじ登ろうと数歩進んだとき、さっきの受付の男が腰のあたりをつかんできた。力任せに引き離そうとする。さらに何人かの男がこちらに向かって来た。
その時、背後、会場の入り口で大きな爆発音がした。
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