神様をめぐる冒険 その57
- 2019.12.24
- ストーリー
大きな爆発音がした。
そのすぐ後には、大きな悲鳴と子供の頃に嗅いだ爆竹の煙のようなニオイがした。振り向くとステージから最も遠い入り口のドアが煙に包まれていた。テレビでも見ているようだ。遠く中東かどこかの国で起きている事件が目の前でおこっている。いや、あれほどはひどくないな。鼓膜が破れたわけでもなければ、目が見えなくなったわけでもない。意外と冷静だ。受付の男がつかんだ腰の手はゆっくりと力が抜けていくのがわかった。
ドアは吹き飛んだってわけでもなく、上側の蝶番だけが外れ、所在なさげにぶら下がっているように見えた。煙の向こうには何人かわからないが人影が見えた。
煙の向こうの彼は拡声器のようなものを使って話し出した。
「いますぐこのようなくだらない集会は中止してください。」
入り口に近い、つまり爆発したドアに近い人ほど金縛りにあったかのように動けないでいた。奥の方ステージに近い観客から何とか逃げようとドアの方へ向かう。ステージをちらりと振り返る。父親と元彼女は静かにステージの袖にはけようとしている。さきほどマイクを握っていた学者は腰を抜かしてへたり込んでいた。
受付の男は「行きましょう」と小さな声で言った後、腰から腕を外し、僕の腕をひっぱった。
拡声器の男はもう一度「今すぐ中止してください。我々もこのようなことをするのは本意ではない。さっさと中止してください。」
ステージで腰を抜かしていたはずの学者が急に起き上がり、「なんだ君たちは、だれか今すぐ警察を呼んで。」とマイクごしに叫んだ。実際は声が震えていたこととマイクが上手く使えなかったことでそう言ったように聞こえただけかもしれない。
男に手を引かれてステージによじ登る。父親と元彼女が引っ込んでいったステージの奥に向かう。
再びマイクを持った学者が何かを叫んだ。
そして
乾いた銃声のような音が聞こえた。学者のマイクがキーンとハウリングしたあと、ステージでは何か大きな丸太が倒れたようなドンという音がした。さらに大きな悲鳴が上がった。
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