神様をめぐる冒険 その36

神様をめぐる冒険 その36

マンモスは実は野球経験者ではない。柔道と空手の黒帯を持っているらしく、前任の中学の時はヤンキーたちからも一目置かれる存在だったそうだ。当時は柔道部の顧問をしていて、元々弱小だったチームを数年で県大会で3位になるくらいの強豪に育てたとの噂だ。なにせ田舎の狭い範囲の話だからすぐにいろいろな情報が入ってくる。

僕の通っていた中学校には立派な柔道場もあったのだが、いろいろと問題があって数年前に廃部になったらしい。その時点でも柔道場の裏にはタバコの吸い殻が山のように落ちている状態だったから、まぁそういう理由だったのだろう。

前に書いたように各小学校にはサッカーチームがあって運動神経の良い子供はだいたいそこに入る。同じように女子はバレーボールのチームがあってこれまた然り。必然的にそれらの精鋭が各小学校から集まるのだから、この2つの部活は強く、県大会だけでなく、全国大会に出場する事もある。そして、体育教師はこれらの花形チームの顧問を複数で務めている。まぁ、そりぁ、やりがいもあるやろうしなぁ。自分の実績にもなるだろうし。

で、今回赴任して来たマンモスは何故か弱小野球部の顧問なのだ。市の予選でもだいたい1回戦負けのチームに体育教師?

せっかくの経歴なのに担当する部活動が無いから、仕方なく最初の顧問から引き継いだものと思っていた。

最初の練習の日、僕は先輩でエースのYと2人でブルペンに入り、投球練習をさせられた。初日という事もあってかマンモスは全体を確認するように見てまわり、何か特別に指導をするという感じでも無かった。

エースのY先輩は異様に僕に対抗心を向けてくる。彼がエースで僕が2番手なのだからもうちょっとドンと構えてくれていれば良いのだが。彼は変化球が得意でコントロールも良い。で、僕はというと相変わらず進歩がなく、球は速いがコントロールが悪いままだった。そしてこの1年の間、無駄に過ごしてしまったせいで、ろくに変化球を投げる事もできなかった。元々小学生時代は禁止だったし、その後教えてくれる人もいなかったので、本屋で立ち読みした「ピッチャー入門」で見た投げ方を独学でなんとかしようとしていたのだから。でも、相変わらず球だけは速かったのだ。スピードガンなんてものは無かったから具体的に説明はできないんだけどね。

球の速さ以外は全部俺の方が優っているのに、みんなこいつばっかり見やがって。俺がエースやのに。マンモスにアピールしようと特にその日は気合が違った。

一通り、練習が終わり、全員が集合させられた。マンモスは短く感想を述べ、あっさり解散となった。

だいたいこういう時って最初が肝心だからと、かましてくるはず。と、みんな思っていたから拍子抜けした気分だった。体育教師らしく無いぞ。

部室に戻りかけた時、

「ツル、ちょっと話がある」

僕だけが呼ばれた。

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