神様をめぐる冒険 その11
- 2019.11.06
- ストーリー
商店街の本筋と垂直に走る道は大きなものが3つ、小さな路地はもう少しあった。それぞれがどんな感じなのか、自分の店のまわりでさえ、そんなに詳しくないのだ。配達も工事も配送センターから業者が行くし、ちょっとした確認や下見は若いG君がメインで行ってたしなぁ。ほんと残念ながら、2年もいたのにあんまり詳しくなかった。行動範囲なんてたかだか知れているもんだ。
とりあえず、先ほどよりもさらにゆっくり歩いてみた。
もちろん、本筋と違って、お店ばかり並んでいるわけではなく、一般の古くからある住宅のなかにこじんまりとした昔ながらのお店がたまにあるといった風景だった。
こんなところに、喫茶店かぁ、一回ぐらい行っておけばよかったなぁ。でも、今日は久しぶりに歩いてるし、意外と多く食べれそうだ。あとでいつもの定食屋に行ってみるか。先ほどの何倍も「へぇ~」の数は多かった。
ぷらぷらと歩いているときだった。
「あっ、ちょっと!店長さん」
不意に話しかけられて、後ろを振り向く。おそらくうちの父親よりも少し年配の見知らぬ男性から声をかけられた。
「電気屋さんの店長さん?」
「あっ、いゃ、ハイ。そうです。ほんとは店長代理ですけど。」
「あ~そうなの。まぁ、どっちでもいいけど、電気屋の偉い人でしょ?」
「どうなの。お店大変だったね。みんな、どうなったんかなぁって、心配してたんやから。」
う~ん。全然思い出せない。もともと僕は自分の名前が変わっていることもあって、人の名前が全然憶えられなかった。だいたい、相手が憶えてくれるのだ。一度聴いたらなかなか忘れないでしょ?そういった甘えなのか、なんなのか、小売業で働くうえでは致命的な欠陥とでもいうか。顔と名前が一致しないことが今までも多々あったのだ。あ~、前に何か買ってもらったかなぁ。う~ん、どこかで見たことがあるような、でも、思い出せない。なにか特徴があるタイプの外見でもないし、声もいたって普通だ。でも、ものすごく親しげに話しかけてくる。
「うちのお店そこやから、ちょっとお茶でも飲んでいき。」
「おかんはちょっと外出してるけど、お茶ぐらいワシも入れれるしなぁ。」
彼が指差したそこにはごく普通のお店があった。パッと見た感じは不動産屋かな。道に面したガラス面に複数の紙が貼ってあるように見える。1階が店舗で2階が住居だろうか。何とか、看板の店名を確認しようと目を凝らした。
「どうぞ、どうぞ。」「遠慮せんでええから。お宅にはお世話になってきたし、いままで。」
もはや、電気屋とは関係なくなる。そのつもりなんだから、別に断ってもよかったんだけど、その場の雰囲気でなんとなくそういう流れになってしまった。
「あっ、ありがとうございます。それじゃ、少しだけ。すいません」
ようやく、看板が見えた。
「さがわ革命店」
それが、このおっさんのお店の名前だった。
断ればよかった。
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